所得税の予定納税を理解する:フリーランスのための計算、納付、減額申請ガイド
はじめに:フリーランスと予定納税
フリーランスとして活動され、確定申告のご経験がある皆様の中には、「予定納税」という言葉を聞いたことがある方、あるいは実際に納付されたことがある方もいらっしゃるかと存じます。予定納税は、その年の所得税の一部を事前に納める制度であり、所得が増加したフリーランスにとっては、確定申告だけでなくこの予定納税への理解と準備が非常に重要になります。
この制度を正しく理解し、適切に対応することで、予期せぬ納税負担に慌てることなく、スムーズな資金繰りを実現することができます。この記事では、予定納税の基本的な仕組みから、ご自身の納税額の計算方法、納付の手続き、そして納付額を減額できるケースとその申請方法について詳しく解説してまいります。
予定納税とは?対象者と通知時期
予定納税とは、前年分の所得金額や税額などを基に計算された、その年の所得税・復興特別所得税の一部をあらかじめ納付する制度です。これにより、確定申告期に一度に多額の税金を納付する負担を軽減する目的があります。
予定納税が必要となるのは、主に以下の条件に該当する方です。
- 前年分の所得金額から計算した所得税額が15万円以上であること。
- かつ、その税額から源泉徴収税額などを差し引いた金額が15万円以上であること。
前年、事業が好調で一定以上の所得があったフリーランスの方は、本年分の所得税について予定納税が必要となる可能性が高いと言えます。
予定納税が必要な方には、税務署からその年の6月中旬頃に「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の通知書」が送付されます。この通知書に記載された金額を、定められた期限までに納付する必要があります。
予定納税額の計算方法
予定納税額は、原則として前年分の申告納税額(所得税額から源泉徴収税額などを差し引いた金額)を基に計算されます。具体的には、前年分の申告納税額の3分の2に相当する金額が予定納税額となります。
この金額は、通常2回に分けて納付します。
- 第1期分: 予定納税基準額の3分の1の金額
- 第2期分: 予定納税基準額の3分の1の金額
例:前年分の申告納税額が45万円だった場合 予定納税基準額 = 45万円 第1期予定納税額 = 45万円 × 1/3 = 15万円 第2期予定納税額 = 45万円 × 1/3 = 15万円
合計で30万円(=予定納税基準額の3分の2)が予定納税額となります。
この計算は税務署が行い、通知書に記載してくれますので、ご自身で計算する必要はありません。ただし、前年の所得が予定納税の対象となる水準だった場合、6月頃に通知が届くことを想定しておくと良いでしょう。
予定納税の納付時期と方法
予定納税は、第1期分と第2期分の2回に分けて納付します。それぞれの納付期限は以下の通りです。
- 第1期分: 7月1日から7月31日まで
- 第2期分: 11月1日から11月30日まで
もし期日までに納付が難しい場合は、延滞税が発生する可能性がありますのでご注意ください。
納付方法にはいくつかの選択肢があります。
- 金融機関の窓口: 通知書に添付されている納付書を使用します。
- 税務署の窓口: 同様に納付書を使用します。
- e-Taxによる納付: インターネットバンキングやクレジットカード納付、ダイレクト納付などが利用できます。
- コンビニエンスストアでの納付: QRコードやバーコードを利用した納付が可能です。(金額に上限があります)
- 振替納税: 事前に依頼書を提出しておくと、預貯金口座から自動的に引き落とされます。納付忘れを防げるため便利です。
ご自身の都合の良い方法を選択してください。e-Taxや振替納税は、窓口に行く手間が省けるため、日頃からオンラインでの手続きに慣れているフリーランスの方には特に便利な方法と言えるでしょう。
予定納税額を減額できるケース(減額申請)
予定納税は前年の所得を基に計算されますが、年が明けてからの事業状況の変化などにより、その年の所得が前年よりも大幅に減少することが見込まれる場合、予定納税額を減額できる制度があります。これを予定納税額の減額申請といいます。
減額申請ができるのは、主に以下のような場合です。
- 廃業、休業
- 事業の著しい不振
- 災害、盗難、横領による損失
- その他、各種控除の適用により所得税額が大幅に減少する場合(例:医療費控除が多額になる、扶養親族が増えるなど)
これらの理由により、その年の6月30日(第1期・第2期分とも減額申請する場合)または10月31日(第2期分のみ減額申請する場合)の現況で計算した「申告納税見積額」が、予定納税基準額よりも少なくなると見込まれる場合に申請できます。
減額申請の手続き
減額申請を行う場合は、「予定納税額の減額申請書」に必要事項を記載し、税務署に提出します。
- 第1期分および第2期分の減額申請: 7月1日から7月31日まで
- 第2期分のみの減額申請: 11月1日から11月30日まで
申請書には、その年の1月1日から6月30日までの所得金額や経費などを基にした所得税額の計算(申告納税見積額)を記載する必要があります。この計算には、日頃からの正確な記帳が不可欠です。また、事業の不振などを証明する書類(売上台帳、経費の領収書など)の提出を求められることもありますので、準備しておきましょう。
申請内容が認められると、予定納税額が減額されます。第1期分の申請が期日までに認められた場合は、第1期分と第2期分の両方が減額されます。第1期分を既に納付した後に減額が認められた場合は、納付済みの第1期分の一部が還付されるか、または第2期分の予定納税額に充当されます。
年間の所得が前年より大きく変動しそうな場合は、減額申請を検討することで、資金繰りを楽にすることができます。ただし、申請には正確な見積もりと証明書類が必要となるため、計画的に準備を進めることが重要です。
予定納税に備えるための資金計画
予定納税の通知は、確定申告が終わって一段落ついた頃に届くため、 unprepared な状態だと納税資金の準備に慌てることになりかねません。フリーランスとして安定した事業運営を行うためには、日頃から税金、特に所得税の納税資金を計画的に確保しておくことが非常に重要です。
毎月の売上から一定割合を「税金用」として別口座に取り分けておく、といった習慣をつけると良いでしょう。所得税は利益に対して課税されますので、売上の全てではなく、経費などを差し引いた利益を基に目安を立てます。おおよそ、利益の15%~20%程度を目安として確保しておくと安心できるケースが多いですが、個々の所得水準や適用できる控除によって大きく変動するため、ご自身の状況に合わせて計画してください。
また、クラウド会計ソフトなどを活用して定期的に試算を行うことで、その年の所得や納税額の見込みを把握しやすくなります。これにより、予定納税額や確定申告での最終的な納税額に向けた準備を早期から行うことが可能になります。
まとめ
所得税の予定納税は、所得が増加したフリーランスが直面する可能性のある重要な制度です。6月頃に届く通知書を確認し、記載された納付時期(第1期:7月末、第2期:11月末)までに忘れずに納付することが基本となります。
また、もしその年の所得が前年より大幅に減少する見込みがある場合は、減額申請を行うことで納税負担を軽減できる可能性があります。減額申請には期日があり、正確な見積もり計算と証明書類が必要となりますので、適用を検討される場合は早めに準備を開始しましょう。
日頃から税金に関する意識を持ち、計画的に納税資金を準備しておくことが、フリーランスとして安心して事業を継続するための基盤となります。ご自身の状況に合わせて、本記事でご紹介した情報を活用いただければ幸いです。ご不明な点がある場合や、より複雑なケースについては、税務署や税理士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。